あえぬがに花咲きにけり。
万葉集に出てくる言葉に「あえぬがに」というフレーズがあります。
東大寺近くに咲く氷川神社の枝垂れ桜。
「あえぬがに花咲きにけり」とは、こぼれ落ちそうなほどに花が咲いている様を表現しています。
あえぬがにを文法的に解説してみます。
「落(あ)ゆ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」+接続助詞「がに」から成立しています。
古語の世界では、汗や血、乳などがしたたり落ちることを自動詞「落(あ)ゆ」で表現しました。なんだか言葉の響きがいいですよね(*^_^*)
「落(あ)ゆ」から落ち鮎を連想してしまうのは私だけでしょうか(笑)
春日大社神苑の藤の花も、あえぬがに花咲きにけり ですね。
動詞「落(あ)ゆ」と関係しているのかもしれない形容動詞に、あえかなりがあります。
若い女性などの体つき、態度などが弱々しく美しい様を言い表します。
どこか頼りなく、はかなげな様子が男性の心を捉えるのでしょうか。
「源氏物語」の女三の宮の様子を、「身もなくあえかなり」と表現した紫式部。「あえかなり」は人に対してばかりでなく、「あえかに咲く花」などの表現も見られます。
「あえぬがに」や「あえかなり」から類推してみると、昔の人は垂れ下がるものに美を感じたのではないでしょうか。
等彌神社の夫婦杉の前に垂れ下がる紙垂(しで)。
神社の境内でよく見かける「紙垂(しで)」や「枝垂れ桜」なども、他動詞の「垂(し)づ」から派生しています。
奈良にまつわる俳句として、歌人の諏訪ふじ江さんの俳句をご紹介しておきます。
”飛火野の 老いたる鹿の あえかなり ”
無常観なのか、時を重ねたものへの畏敬の念なのか・・・あえかなりの言葉の広がりが感じられます。
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