馬を神に奉納する。
古代から見られる馬への信奉は、現代にも色濃く残されています。ぱっと思い付くものを挙げるとすれば、神社で願い事を託す絵馬や、結婚式の引き出物などにその影が見られます。
先日、見学させてもらった桜井市立埋蔵文化センター内で、古代の祭祀道具であったとされる土馬(どば)が展示されていました。
土馬とは馬の形をした土人形で、雨乞いなどの祭祀が行われる際、本物の馬の代わりに使われたとされます。 ”本物の馬の代わりに” というところが、現在の絵馬や引き出物にも通じます。
首や脚が取れた状態で出土することの多い土馬。埋蔵文化財センターの土馬も、どうやらそのような状態で出土しているようですね。
神様に馬を奉納する習慣は、京都の八坂神社や伏見稲荷大社へ行けばよく分かります。神馬(しんめ)と呼ばれる馬が、今も境内に奉納されています。本物の馬だと、さすがに世話も大変だし、大きすぎるということもあるので、後に絵馬として奉納するようになったと言われます。
桜井市立埋蔵文化財センターには、馬の埴輪も展示されていました。
結婚式の引き出物の語源は、当時の貴重な必需品であった馬に由来します。庭に馬を引き出して、贈り物としてプレゼントした歴史にちなんでいます。
神様の乗り物であり、貴人の乗り物であった馬。
大神神社の若宮神幸祭、春日大社の春日若宮おん祭などの伝統行事のお渡りにも登場する馬。馬に乗る稚児たちにも、祭りの前の潔斎期間が設けられ、その間は肉を断ったりしなければならないそうです。馬に乗る稚児は神様と捉えられているのでしょうか。
国道169号線沿いの桜井市立埋蔵文化財センター。
このまま北へ真っすぐ30分ほど進めば、奈良の市街地へと続きます。
雨乞いの時に使われた土馬。
日照り続きの時には黒い馬、長雨が続いた時には白い馬を奉納するな習わしだったようです。晴れてほしい時には白い馬を奉納するというのは、現在の感覚からも分かるような気が致します。
土馬は疫病祓いの際にも使われたようで、どうやら疫病神の乗り物でもあったようですね。脚が取れた状態で出土する土馬は、まさしくこの疫病封じだったのではないかと言われています。馬に乗ってやって来る疫病神を封じ込むには、脚を取るのが一番手っ取り早い方法となります。
馬と人との付き合いは長い。
改めてそう思います。
農耕社会でも活躍していたであろう馬、戦国時代には武士たちを乗せて血眼になって疾走していた馬、騎手を乗せて大金獲得の夢を運んでくれる馬。ハイセイコー、シンボリルドルフ、オグリキャップなどはまさしく神様だったのかもしれません。
土馬に見る古代祭祀。
埋蔵文化財センターでは、実に様々なことに気付かされます。奈良県桜井市を訪れたなら、是非一度見学されることをおすすめ致します。
お問合わせ窓口 ; TEL 0744-42-6003