山の辺の道の長岳寺から西へ1㎞ほど行った所に、五智如来を表す梵字額が掲げられた五智堂と呼ばれるお堂があります。お堂とは言っても建物には壁も無く、まるで一本足の案山子のように建っているお堂で、別名を傘堂とも言います。
金剛界五仏を表現する梵字には以前から興味があったので、山の辺の道のルートから少し西に外れることになりますが、一度見学してみることにしました。寄り道とは言っても、五智堂周辺には黒塚古墳や伊射奈岐神社などもあり、有意義な歴史散策が楽しめそうです。
五智堂の西の方角に掲げられていた梵字キリーク。
五智堂の正面がどの方角になるのか分かりませんが、Y字路の交差する場所から五智堂を見るならば、西に面しているこの梵字額が正面になるものと思われます。どの方向から見ても正面に見えることから、真面堂とも呼ばれている五智堂ですが、おそらく間違いは無いのではないでしょうか。
長岳寺のご本尊は阿弥陀三尊像です。
阿弥陀如来が祀られていることを考えれば、西の方角から長岳寺参詣に赴いた昔の人たちが、無量寿如来(阿弥陀如来)を表す西の梵字額を最初に目にするように作られていたのではないかと思われます。
長岳寺の飛び地境内に建つ五智堂。
西の梵字額に刻まれる無量寿如来ですが、お経の正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)の中にも出てきますよね。
帰命無量寿如来 南無不可思議光
お経の意味は、「無量寿如来に帰命して奉る 不可思議光に南無して奉る」となります。お経の中の無量寿如来も不可思議光(ふかしぎこう)如来も、どちらも阿弥陀如来のことを指しています。無量寿とは命に限りが無いことを意味し、阿弥陀様の無量の大慈悲が表現されています。
五智堂の案内板。
梵字額の西が金剛界五仏の無量寿如来、南は宝生如来を表すとガイドされています。宝生如来は仏の悟りの境地の中では、平等性智(びょうどうしょうち)を具現化していると言われます。梵字額のキリークをまじまじと見つめていた私は、そのまま右の方へ回ってみることにしました。
南の方角に掲げられた梵字タラーク。
額の中の梵字以外は、どうやら同じようなデザインが施されています。
鎌倉時代の重要文化財とされる五智堂ですが、梵字額の一つ一つにも、歴史に裏打ちされた計り知れない価値が伝わって参ります。
巷では梵字をデザインしたパワーストーン商品も人気を集めていますが、解読が難しそうな梵字に秘められたミステリアスなパワーに魅せられるのでしょうね。
五智堂で忘れてならないのが、この心柱です。
これ一本で長い年月の間支えられている五智堂を思えば、その重要性が分かるというものです。
物理的に重要であることは誰もが納得するところですが、五智堂そのものの意味合いからも大変重要なポイントを占めています。そうなんです、この心柱こそが大宇宙の中心を意味する大日如来を表しています。
梵字で表すなら、大日如来のバンに当たります。
私は申年ですが、十二支の中の申と未は大日如来の守護を受けているとされます。個人的なことで誠に申し訳ございませんが、私の守護神でもある大日如来を表現しているとされる心柱には、四方の梵字額とはまた違った思い入れを感じた次第です。
五智堂の東の民家の傍らに猿田彦大神が祀られていました。
全国各地のお渡り行列などでは先頭に立つとされるサルタヒコ。道先案内人として道祖神的な役割を担うサルタヒコは、奈良県内の道の分かれ目などでもよく見られます。五智堂が位置する場所もY字路になっていて、昔の名残からこの場所にサルタヒコが祀られているのではないかと思われます。
南の方角の梵字タラークを確認した後、さらに右へ回り込んでみました。
こちらは東の方角に掲げられた梵字額です。解読が難しいですね、この梵字はカーンでしょうか?
案内板を見ると、東の方角は阿閦如来(あしゅくにょらい)を表すと書かれています。悟りの境地では、大円鏡智を具現化しています。
長岳寺の山号である「釜口山(かまのくちさん)」が刻まれます。
弘法大師空海の創建と伝えられる長岳寺は、その山号から釜口大師とも呼ばれています。
宗派は真言宗に属しているところからも、梵字額に金剛界五仏が表現されていることに納得がいきます。
この辺りは車の往来も激しく、昔同様に交通の要衝といった趣です。
北の梵字額は、不空成就如来が表現されているようです。
釈迦如来に相当するとも言われる不空成就如来。思いに囚われないで、成すべきことを成す「成所作智(じょうしょさち)」を具現化しています。
四方の梵字額の最後は、北の方角に掲げられた梵字サク。
梵字辞典などを参照して、おそらくこの字はサクだと思われるのですが、もし間違っていたらツイッターを通してでもお知らせ頂ければ幸いです。
どのような心的状況であっても、あるがままに成すべきことを成していく。
そのような行動の中から見えてくるものはきっとあるはずです。不空成就如来の教えは、どこか Let it be. にも通じるところがあるような気が致します。
五智堂の梵字額、これは寄り道して見学してみる価値が十分にありそうです。
JR万葉まほろば線の柳本駅からも徒歩圏内ですので、JRで移動されるご予定の方にも是非おすすめしたいと思います。
<長岳寺観光案内>
お問合わせ窓口 ; TEL 0744-42-6003