螺髪の盛り上がったお姿で知られる五劫院の仏像。
重要文化財に指定される五劫思惟阿弥陀如来坐像は一見の価値があります。
本堂手前の石灯籠に、お目当ての五劫思惟阿弥陀如来坐像らしきレリーフが見られました。
この仏像を拝観していると、寿限無に出てくる五劫の擦り切れの意味がよく理解できます。劫(こう)とは、梵語 kalpa 劫波の略とされます。きわめて長い時間の単位を意味する言葉で、多くは宇宙の生滅などについて表現されます。
なぜ五劫思惟阿弥陀如来坐像の頭は盛り上がっているのか?
その理由は、あまりにも長い間衆生の救済を考え続けた結果、その螺髪が伸び放題に伸びたというわけです。五劫の時を費やして祈り、大願成就したという話に基づいて造られた仏像なのです。
五劫院本堂。
五劫院は鎌倉時代に創建されていますが、この本堂は江戸時代の1624年に再建されています。内陣と外陣を阿弥陀格子で仕切った格好をしています。
五劫院から東大寺知足院へは徒歩数分の距離にありますが、五劫院は東大寺の末寺でもあります。今回拝観してしてみて、初めて東大寺との関係を知るに至りました。東大寺再興に尽力した鎌倉時代の重源上人こそが五劫院の開基になります。
本堂の前に、特別開扉の期間が案内されていました。
お盆前の8月1日~12日までが特別開扉期間に当たり、8月13日~31日と、お正月の1月1日~15日はお休みとなっています。五劫院の拝観には事前予約が必要で、拝観料は志納となっています。
本堂向って右手前に小さなお堂が建っていました。
特徴的な髪型で人気の五劫院の阿弥陀如来ですが、長い時間を表す「劫」をもう少し詳しく解説致します。劫とは、3年に1度舞い降りた天女が羽衣で岩を一撫でし、擦り減って無くなるまでの時間の長さを意味しています。五劫とは、つまりその5倍の長さの時間を表しているのです。
さざれ石が巌となるまでの時間よりも長いような気が致します。滴り落ちる水滴が、岩に穴をあけるよりも時間が掛かりそうな気配です。五劫院の五劫思惟阿弥陀如来坐像には、とてつもなく長い時間が流れています。
お堂のさらに手前には、鐘楼と観音像が佇みます。
五劫院の由緒をたどれば、宋から請来した五劫思惟阿弥陀仏を祀るためのお堂を建立したのが始まりとされます。その歴史を顧みても、五劫思惟阿弥陀仏あっての五劫院であることが分かりますね。
門前に五劫思惟阿弥陀仏のお写真が貼られていました。
見るからにインパクトの感じられるお姿です。
像高は124.2㎝、鎌倉時代の傑作で木造・漆箔の仏像とされます。
五劫院の山号は「思惟山」。鑑賞すれば鑑賞するほど、思惟山そのままの印象を受けます。
心なしか五劫院の文字が擦り切れて見えます(笑)
羽衣で撫でただけで岩が擦り減っていく・・・そこにどんな摩擦が生じると言うのでしょうか?もちろん、物理的に考えることではないとは思われますが、とてつもなく長い年月を考えれば"実証する"ことすら不可能であると思われます。
道路沿いに面した五劫院の山門。
五劫院の無料駐車場は門前から角を曲がった所にあります。
山号の思惟山が刻まれます。
東大寺の末寺だけに、宗派は華厳宗に属します。
五劫院の住所は奈良市北御門町。般若寺、奈良少年刑務所、北山十八間戸などのある奈良坂を下って来て、正倉院や知足院へ向かう途中に佇むお寺です。
お釈迦様はクセ毛でいらっしゃったのでしょうか?
1本の髪の毛がクルクルッと丸まっている様子を巻き貝に例え、螺髪(らほつ)と命名されています。その螺髪を伸び放題に表現している仏像が五劫思惟阿弥陀仏です。
巻き貝に耳を近づけると、遥か彼方から深い海の音が聞こえて参ります。時空を飛び越えたような錯覚に陥るあの瞬間は、昔の人たちとのつながりを感じる瞬間でもあります。
螺髪の一巻き一巻きに、衆生救済への慈しみを込めた仏様。
今も五劫思惟阿弥陀如来は、巻き貝の深遠なる音に耳を澄まし続けていらっしゃるのかもしれません。
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