樟には悪いものが寄り付かない、それ故に御神木なのでしょうか。
樟(くすのき)という木は、人気のない森林ではあまり見かけませんが、人里近い場所で生育している姿をよく見ます。神社の御神木に樟が多いのも頷けますよね。
般若寺の国宝である楼門を右手に見て、そのまま北へ奈良阪を上がって行くと、程なく翁舞で知られる奈良豆比古神社が見えて参ります。奈良から京都へ抜ける道の途中に鎮座する奈良豆比古神社。その境内に、大きな樟が参拝客を出迎えます。
奈良豆比古神社の樟。
苔生したそのお姿から、御神木の風格が漂って参ります。誰もが認める大グスです。
コスモス寺で知られる般若寺の楼門。
この楼門は車道の脇に建っており、楼門越しに垣間見える十三重石塔が何とも言えぬ風情を醸します。国宝の建物が道路沿いに何気なく建つ風景は、奈良ならではのものでしょうか。楼門の前には美味しいソフトクリームのお店があって、訪れた時にはいつも購入しています。
般若寺楼門を過ぎて、そのまま真っすぐ進むと左手に奈良豆比古神社が見えて参ります。
この辺りは、ひとしきり奈良観光を終えた人におすすめしたいエリアです。北山十八間戸や奈良少年刑務所など、通り一ぺんの奈良観光とは趣を異にする名所が集まります。
奈良豆比古神社の御祭神は春日大社との関係が深いようで、「春日社」と刻まれた石灯籠も見られます。古くは「奈良坂春日社」と呼ばれていた歴史があります。
大地にしっかりと根を張る大樟。
奈良県の天然記念物に指定されている奈良豆比古神社の樟は、樹齢1,000年、幹周り7.5m、樹高30mを誇ります。実に立派な巨木です。
ぐるりと周囲を見渡せるようになっていて、参拝客向けに階段も用意されています。あらゆる角度から巨樹を観察することができ、その偉容に圧倒されるばかりです。
こちらが樟の全体像。
拝殿の裏へ回り、上手の方から樟を見下ろします。
ここから左手にとって裏へ回ると、御神木の樟が姿を現します。
垂れ下がった注連縄を見ると、なぜか大相撲の横綱土俵入りを思い出してしまいます。神事の相撲において、最強の横綱には結界が張られているのかもしれませんね(笑)
樟は暖地に生育する木として知られ、日本では九州地方に多く見られます。イベントの時に使われる「くす玉」の元になっているとも言われます。魔除けのくす玉ということなのでしょうか。樟脳で知られるように、樟には防虫効果があります。悪いものを寄せ付けない樟の性質は、そのまま魔除けの願いへと繋がっていきました。景気づけのクス玉にはもってこいですよね。
本殿には一間社の春日造が3殿並びます。
神社の心臓部分に当たる本殿を前に、自ずと姿勢が正されます。
本殿手前にある奈良豆比古神社の舞台。
こういう舞殿を見ると、神社で催される祭事が思い起こされます。京都の八坂神社境内にも舞殿がありますよね。祇園祭の直前になると、お神輿が舞殿の中に収められます。
それにしても見事な樟です。
樟は特異な芳香を持つことから、「奇し(くすし)」という古語から樟(くす)になったとも言われます。奇し(くすし)とは、古語における形容詞で、神秘的な感じを表します。不思議だ、人間離れしている、とっつきにくい等の意味があります。霊妙で悪いものを寄せ付けない、そんなニュアンスを感じさせます。
防虫効果もあったことから、飛鳥時代の仏像にも樟がよく使われています。
奈良豆比古神社の狛犬。
番犬のように鳥居の両脇に居座る狛犬。悪いものを寄せ付けないという意味では、狛犬も樟も同じ効果を発揮しているのでしょうか。
奈良豆比古神社の近くに、般若寺と興福院を案内する道標が立っていました。
興福院を参拝する際は、あらかじめ参詣の予約をしておく必要があります。私は知らずに訪れたため、残念ながら正式に参拝することができませんでした。
奈良阪の氏神である奈良豆比古神社。
その境内にどっかりと根を下ろす御神木の樟。クスノキという漢字表記には、「樟」と「楠」があります。歴史上の人物ですぐに頭に浮かぶのが、楠木正成ですよね。” 悪いものを寄せ付けずに、正しく成長する ” なんだかとても縁起の良い名前に思えてきます(笑)
古来、人々の近くで見守り続ける御神木のありがたさ。
樹齢1,000年の樟の成長を、これからもずっと見届けていきたいと思います。
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